こころの森のものがたり|第5話
『あのときのヒビ』
雨が降っていた日のことを、
こんぶはよく思い出す。
小さなことで、誰かの声が大きく感じられた。
「どうしてできないの?」
「気にしすぎじゃない?」
そのとき、心のどこかで、
“パキン”と音がした気がした。
気づいたら、頭の上に――ヒビができていた。
そして、そこから芽が生えていた。
最初は隠したかった。
枯れてくれたらいいのに、って思った。
でも、森の風がやさしくて。
葉っぱの音が、なにかを包んでくれて。
カゲルが、「その芽、けっこう似合ってる」って言ってくれた。
ヒビは、いまもある。
でも、そこから伸びた芽が、光を受けている。
「……折れなかったんじゃない。
育ててこれたんだね。」
こんぶは、空を見上げた。
その目は、少しだけ強くなっていた。
登場キャラクター
■ こんぶ
過去の傷が“ヒビ”となり、そこから新しい命(芽)が生まれていた。
それは“トラウマ”ではなく、“成長の種”だったと気づく。
■ カゲル(回想的に登場)
無理に励ますでもなく、ただ「似合ってる」と言った言葉が、
こんぶにとっては支えになっていた。
この話のテーマ
傷は消えなくても、それを通して光が入ってくる。
そして芽は、そこから育つ。